このコラムについて(まずお伝えしておきたいこと)
このコラムは、
不動産を法人名義で買うか、個人名義で買うか迷っている
中小企業の社長・オーナーの方
に向けて書いた、「考え方の整理用」コラムです。
- 税金(税率・控除など)
- 法律の細かいルール
- 登記の実務
などは、人によって答えが大きく変わりますし、法律や制度も変わります。
そのため、このコラムは 税理士・弁護士・司法書士などの専門家による個別のアドバイスではありません。
「一般的にはこういう考え方がありますよ」という情報提供レベルにとどめています。
実際に決めるときや、手続きを進めるときは、
必ず顧問の税理士さんや、弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。
なぜ「法人名義か個人名義か」でこんなに迷うのか
不動産を買おうとすると、社長からよくこんな相談を受けます。
「この不動産、法人で買ったほうがいいのか、
個人で買ったほうがいいのか、どっちですか?」
ネットで「不動産 法人 個人 どっち」と検索すると、
- 「節税になるから法人が有利!」
- 「住宅ローンが使えるから個人の方が有利!」
など、いろんな情報が出てきますよね。
ただ、実際に現場でお話を聞いていると、
- 会社の状況(創業して間もないのか、安定しているのか)
- 社長ご自身の年齢や家族構成
- 今後どれくらい不動産を増やしたいか、本業をどう伸ばしたいか
によって、「ちょうどいい答え」が全然変わってきます。
そこでこのコラムでは、
「法人名義か個人名義かを考えるとき、
まずはこのあたりを見ておくと整理しやすいですよ」
という5つのポイントを、できるだけやさしい言葉でまとめてみます。
不動産を法人名義か個人名義か考えるときの5つのポイント
1. 税金のポイント(あくまで「考え方」の話)
まず気になるのが税金の話だと思います。
ざっくり言うと、
- 個人名義で持つ不動産:
家賃収入などは「個人の所得」として扱われ、所得税・住民税の対象になります。 - 法人名義で持つ不動産:
会社の売上や経費の一部として扱われ、法人税などの対象になります。
ネットでは、
- 「所得税率が高いから、法人の方が節税になる」
- 「住宅ローン控除を考えると、個人名義がいい」
など、いろいろ書かれていますが、実際には、
- 会社全体の利益がどれくらい出ているか
- 社長やご家族の他の収入(給与・事業所得など)とのバランス
- 将来その不動産を売るとき、引き継ぐときにどういう課税がありそうか
といったことまで見ないと、本当のところはわかりません。
税金はかなり個別性が高いので、
ここでは
「法人と個人では、税金のかかり方が違う。
だから、必ず税理士さんと一緒にシミュレーションした方がいい」
という考え方レベルで押さえておくのがおすすめです。
2. 資金調達(融資)・銀行の見方のポイント
2つ目は、お金を借りるときの視点です。
個人名義で不動産を買う場合、
銀行は主にこんなところを見ます。
- 個人の年収
- 勤務先・勤続年数
- 既に組んでいる住宅ローンや借入
など、いわゆる「個人の信用力」です。
一方、法人名義で不動産を買う場合、銀行が見るのは、
- 会社の決算内容(売上・利益・自己資本)
- 本業や不動産賃貸が、ちゃんと返済原資を生みそうか
- 既にある法人の借入とのバランス
など、会社としての力です。
会社の決算がまだ弱い段階では、
「法人名義で買いたいけど、今は少し難しい」
「まずは個人名義で1棟目を買って、数年かけて法人の決算を整えよう」
という選択になることも、実務ではよくあります。
どちらが借りやすいかは案件や銀行によって違うため、
実際の融資条件は、銀行・信用金庫の担当者に確認することが大切です。
3. キャッシュフローと将来の出口(ゴール)のポイント
3つ目は、お金の流れ(キャッシュフロー)と出口の話です。
ここでいうキャッシュフローは、
「毎月、どこにお金が入ってきて、
どこから支払って、
最終的に誰の財布にお金を残したいか」
というイメージです。
例えば、
- 個人名義の不動産
- 個人の家計の中で完結させたいときに向いていることが多い
- 「自分や家族の資産」として残したい場合など
- 法人名義の不動産
- 会社の中に資産を貯めたいときに向いていることが多い
- 「会社のバランスシートを強くしたい」「将来の事業承継・M&Aも視野に入れている」場合など
また、出口(ゴール)として、
- 将来売って現金化したいのか
- 子どもや親族に引き継ぎたいのか
- 会社ごと引き継いでもらう(事業承継・M&A)イメージなのか
によっても「法人か個人か」は変わってきます。
「目の前の家賃」だけで決めるのではなく、
10年後・20年後にどうしていたいかを、一度言葉にしてみる。
それだけでも、だいぶ整理が進みます。
4. リスク・保証・万が一のときの守りのポイント
4つ目は、リスクの話です。
ほとんどの場合、
- 個人名義の借入 → 社長個人の連帯保証
- 法人名義の借入 → 会社の借入+代表者保証
という形になっていて、どちらにしても「保証」はついてきます。
とはいえ、
- 事業のリスクをどこまで法人の中に閉じ込めるか
- 個人のお金と会社のお金をどこまで切り分けておきたいか
という考え方は、とても重要です。
例えば、
- 空室が続いたり、家賃が下がったりしたとき
- 本業の売上が一時的に落ちてしまったときに
「どこまでなら耐えられるか」
「どこから先は危険ゾーンなのか」
をイメージしておくと、法人名義か個人名義かの選択にも影響してきます。
5. 事務作業・管理のしやすさのポイント
最後に、事務・経理の大変さという、とても現実的なポイントです。
法人名義の不動産の場合、
- 会計ソフトに仕訳を入れる(減価償却・経費計上など)
- 管理会社との契約や更新、請求書の処理
- 固定資産税や修繕費の管理
など、会社の経理・事務の中で対応することが増えます。
経理体制が整っている会社なら問題ありませんが、
まだ事務担当が少ない会社では、資料が多すぎて整理できない
という悩みにつながることもあります。
一方で、個人名義の不動産なら、
確定申告で「不動産所得」として整理する形になり、
規模が小さいうちはシンプルに管理できるケースも多いです。
「誰が、どこまで事務を担当できるか?」
という、現場レベルのイメージも大事な判断材料になります。
個人名義の不動産が向いていることが多いケース
ここまでの5つのポイントをまとめると、
一般的には、次のようなケースでは個人名義が選ばれやすいです。
- 自宅やセカンドハウスなど、「生活」とのつながりが強い不動産
- 会社の決算がまだ弱く、個人の属性で住宅ローンなどが組みやすい場合
- 事業とは切り分けて、個人の資産として持っておきたい場合
- 相続のときに、親族で分けやすい形にしておきたい場合
もちろん、これはあくまで一般論です。
実際には、税理士さん・司法書士さんなど専門家に相談しながら決めていくことになります。
法人名義の不動産が向いていることが多いケース
逆に、次のようなケースでは、法人名義を検討する価値が高いと言えます。
- 事務所・店舗・工場・社宅など、「事業で使うことが前提」の不動産
- 会社の中に資産を積み上げて、自己資本を厚くしていきたい場合
- 将来的に複数の不動産を組み合わせて、投資のポートフォリオを作っていきたい場合
- 事業承継やM&Aを視野に入れて、「会社ごと引き継いでもらう」形も考えている場合
法人名義にすると、
- 家賃収入と事業の利益を、同じ決算書の中で管理できる
- 貸借対照表(会社の財産一覧表のようなもの)が強くなる
といったメリットもあります。
ただし、
「節税になると聞いたから、とりあえず法人で」
という決め方をしてしまうと、
出口(売却・相続・承継)の段階でかえって困ることもあります。
よくある勘違いと、気をつけたい落とし穴
現場でよく見る「もったいないパターン」を挙げておきます。
- 「法人で持てば、なんでも節税になる」と思い込んでしまう
- 個人と法人のお金の流れがごちゃごちゃになり、経理や税務がとても複雑になる
- 将来売る・引き継ぐときのことを考えずに、「とりあえず」で名義を決めてしまう
不動産は金額も大きく、期間も長いので、
- 今の税金
- 将来のお金の流れ
- 家族や後継者の負担
- 本業の事業とのバランス
まで含めて考えると、「今はこうしておくのがよさそうだな」というラインが見えやすくなります。
まとめ|「法人名義か個人名義か」は、ゴールから逆算して決める
不動産を 法人名義で買うか、個人名義で買うか について、
「こうすれば絶対に正解」という答えはありません。
だからこそ、
- 自分(自社)は、何のために不動産を持ちたいのか
- 10年後・20年後、その不動産とどう付き合っていたいのか
- 会社と個人のそれぞれの財布に、どのようにお金を残していきたいのか
といったゴールから逆算して考えることが、とても大事になります。
このコラムは、あくまで考え方を整理するための一般的な情報です。
実際の税務・法務・登記などについては、
必ず顧問の税理士さん・弁護士さん・司法書士さんなど、
信頼できる専門家にご相談ください。
ご相談を検討されている中小企業オーナーの方へ
「うちの場合は、法人名義と個人名義、どんな整理になりそうか話を聞いてみたい」
「税理士には相談しているけれど、不動産と経営・資金繰りも含めて全体像を一度整理したい」
という中小企業オーナーの方は、
よろしければ一度お話をお聞かせください。
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