このコラムで伝えたいこと(はじめに)
このコラムは、
「空き家になった実家を、とりあえず賃貸に出してみようかな」
「売るか貸すか迷った末に、とりあえず貸す方を選びそう」
という 個人オーナーの方向け に書いたものです。
空き家や実家を賃貸に出すとき、
契約の段階ではあまり意識されないのに、
退去時に一気に問題が表面化するのが「原状回復」 です。
- 壁紙の汚れ・キズ
- 床の凹み
- 設備の故障
- ハウスクリーニング代
などを、
どこまで借主負担にできるのか/どこからオーナー負担なのか。
この記事では、
- 原状回復の基本的な考え方(ガイドラインベースの一般的な話)
- オーナー側として事前に押さえておきたいポイント
- 管理会社や専門家に任せるべきライン
を、できるだけやさしく整理していきます。
※本記事は、あくまで一般的な考え方の整理であり、
個別案件の法的判断・税務判断を行うものではありません。
具体的な契約内容・紛争対応については、
宅建業者・弁護士・司法書士・税理士などの専門家にご相談ください。
原状回復とは?(定義とガイドラインの考え方)
原状回復の基本的な意味
日本で賃貸住宅の「原状回復」と言うとき、
一般的には国土交通省の 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」 を前提に議論されることが多いです。
このガイドラインでは、原状回復とは次のような考え方で整理されています(要約)。
「賃借人が借りたときの状態そのものに戻すこと」ではなく、
通常の使用による損耗や経年変化を除いた範囲で、
賃借人の故意・過失などによって生じた損耗等を修繕すること。
つまり、
- 経年劣化・日常的な使用で自然についていく傷み → 基本的にはオーナー側の負担
- 借主の故意・過失・通常の使用を超える使い方による損耗 → 原則として借主負担
という整理がベースになっている、と思っておくとイメージしやすくなります。
原状回復の要点:オーナー目線で押さえたい4つのポイント
① 経年劣化・通常損耗はオーナー負担が基本
代表的な例として、ガイドラインでは次のようなものが
「通常の使用による損耗・経年変化」とされています(抜粋イメージ)。
- 家具の設置による床・カーペットのへこみ
- 日照による畳やフローリング・クロスの色あせ
- 冷蔵庫・テレビ等の設置に伴う電気焼け(壁の黒ずみ)
- 入居期間相応の画びょう・ピン穴(一定程度) など
これらは、貸していれば必ず起こるレベルの傷みなので、
基本的にはオーナー側の負担で修繕・張り替えを行うもの、
という整理になります。
② 借主の故意・過失・通常を超える使い方は借主負担
一方で、次のようなものは、
原則として借主側の負担とされやすい代表例です。
- タバコのヤニで著しく汚れたクロス
- 落書き・クギ穴・大きなビス穴
- 室内でペットを飼育していたことによる臭い・傷(禁止されていた場合など)
- 水漏れを長期間放置したことによる床・壁の腐食 など
もちろん、「どこからが通常で、どこからが過失か」 の線引きは、
個別具体の事情や契約内容によって変わりますが、
オーナーとしては、
「何でもかんでも借主負担にはできない」
「ただし明らかな過失やルール違反は負担を求めることができる」
という大枠のイメージを持っておくと、退去時に冷静に判断しやすくなります。
③ 契約書と「入居時の状態確認」がとても重要
原状回復トラブルの多くは、
- 契約書に十分な説明がない
- 入居時の状態確認(写真・チェックシート)が曖昧
なことが原因の一つになっています。
オーナーとしては、
- 管理会社が使っている契約書に
- 原状回復の考え方
- 借主負担となる代表例
などが記載されているか
- 入居時に
- どのようなチェックを行うのか
- 写真やチェックリストを残しているか
を事前に確認しておくと安心です。
④ 「自主管理」か「管理会社に任せるか」の違い
- オーナーが自分で入居者募集・契約・退去立ち会いまで行う「自主管理」の場合、
原状回復の判断・説明もすべて自分で行うことになります。 - 管理会社に任せる場合は、
- 原状回復の判断基準
- 借主への説明の仕方
も含めて、どこまで対応してくれるか・どんな方針なのかを、
最初の段階で共有しておくことが大切です。
比較:オーナーが気にする「3つの境界線」
原状回復で揉めやすいのは、だいたいこの3つの境界線です。
境界線1:「それって経年劣化?過失?」
- 例:フローリングの傷・凹み
- 例:クロスの汚れ・変色
ポイント
- 1〜2ヶ所の軽い傷か、広範囲か
- 通常の生活で必然的に起こるレベルか、明らかに乱暴な使い方か
など、程度によって評価が変わることが多いです。
このあたりは、管理会社や専門業者の意見も聞きながら判断するのが現実的です。
境界線2:「どこまでを借主負担にするか」
- 借主側の過失があったとしても、
原状回復費用の 100%を借主負担とするのが妥当とは限らない ケースもあります。
例えば、
- 設備が古く、もともと耐用年数ギリギリだった
- 一部だけを部分補修できるが、全面張り替えが必要になった
などの場合、
ガイドラインでも「経過年数(残存価値)」を考慮して、
借主負担の割合を調整する考え方が示されています。
ここは、オーナー・管理会社・借主の三者で
落としどころを探る交渉の余地があるゾーンです。
境界線3:「どこから専門家に任せるか」
- 小さなトラブルであれば、
管理会社の調整で収まることも多いですが、 - 話し合いがこじれてしまった場合は、
「どこから先は弁護士に相談すべきか」
「紛争に発展しそうな場合、どう動くか」
といった判断も必要になります。
オーナーとしては、
- 「ここまでは管理会社に任せる」
- 「このラインを超えたら専門家に相談する」
という 自分なりの目安 を持っておくと、
感情的にならずに対処しやすくなります。
具体例:空き家・実家を貸す前にやっておきたいチェックリスト
ここからは、
「これから空き家・実家を貸そうかな」 というタイミングで、
オーナーが事前にチェックしておきたいポイントを、リスト形式でまとめます。
チェック1|現状の傷み・不具合を一度リセットして把握する
- 壁・床・天井の状態
- 水回り(キッチン・浴室・トイレ・洗面)の傷み具合
- 給湯器・エアコンなど設備の年式・動作状況
を、一度自分の目で(できれば写真付きで)確認しておきます。
ポイント
- 「入居前からあった傷み」と
- 「入居後に発生した傷み」
を区別できるようにしておくことが、
退去時のトラブル防止につながります。
チェック2|どこまでリフォーム・修繕して貸し出すかを決める
- 最低限、安全・衛生面で問題がない状態まで直す
- どこまで内装をきれいにするか(クロス・床の張り替えなど)
- 古い設備(給湯器・エアコンなど)を入れ替えるかどうか
を、賃料設定とのバランスで考えます。
「全部新品にして貸す」必要はありませんが、
古すぎる・状態が悪すぎると、
- 入居後の故障
- 借主とのトラブル
につながりやすくなります。
チェック3|管理会社の原状回復方針を確認する
- どのような基準で
- オーナー負担
- 借主負担
を判断しているか
- 退去立ち会いは誰が行うのか
(管理会社か、オーナー同席か) - 見積もり・説明はどのような形で借主に提示するのか
などを確認しておくと、
「こんなはずじゃなかった」
を減らすことができます。
チェック4|契約書・重要事項説明で何が説明されるか見ておく
- 管理会社が使っている
- 賃貸借契約書
- 重要事項説明書
に、原状回復や借主負担の考え方がどう書かれているか
- 特約条項で、
- どこまで借主負担としているのか
- 逆に、オーナーとして譲歩している部分はあるか
を一度目を通しておくと安心です。
チェック5|自主管理にするか、管理会社に任せるか
- 自主管理の場合:
- 入居者募集〜審査〜契約〜退去立ち会い〜原状回復の調整まで
すべて自分で行うことになる。 - コストは抑えやすいが、時間と手間・一定の知識が必要。
- 入居者募集〜審査〜契約〜退去立ち会い〜原状回復の調整まで
- 管理会社に任せる場合:
- 管理委託料は発生するが、
日常のやりとり・トラブル対応を任せられる。
- 管理委託料は発生するが、
「どちらが正解」という話ではなく、
自分の時間・距離・今後の賃貸戸数の見込み
なども含めて、
現実的にやり切れる方を選ぶのが大切です。
まとめ|「貸す前に1時間整理しておく」と、退去時がかなり楽になる
空き家や実家を賃貸に出すとき、
つい意識が行きがちなのは、
- 「いくらで貸せるか」
- 「いつから家賃が入るか」
といった スタート時の話 です。
しかし、賃貸経営の現場感覚としては、
「退去時に揉めない準備」をしておくかどうか で、
オーナーのストレスは大きく変わります。
- 現状の傷み・不具合の把握
- 原状回復の考え方(オーナー負担/借主負担)のイメージ
- 管理会社の方針と契約書の内容確認
これらを 最初に1時間でも整理しておくかどうか が、
数年後の退去時のスムーズさに効いてきます。
完璧にやろうとする必要はありません。
まずは、
- 管理会社に方針を確認する
- 自分の中で「ここまではオーナー負担でいい」というラインを考える
- 借主にもわかりやすい説明をしてもらう
ところから始めてみるのがおすすめです。
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この2つをあわせ持つことを強みとして、
- 空き家・実家を
- 売るのか
- 貸すのか
- しばらく保有するのか
- 貸す場合に、
- どの程度リフォームするのが現実的か
- 管理会社にどこまで任せるか
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